第10章 愛してる
「……え? どういうこと? なんで知ってるの?」
ハンジは心底不思議そうに言った。
「とにかく無事だ」
「いや、だからなんでそんなことが言えるの? ちゃんと説明してくれ」
何から話すべきだろうか。
少なくともあの湖で聞いた話はすべきではない。アリアのためにも。
その時、アリアが寝返りを打つ音がした。シーツが擦れ、布団がもぞもぞと動く。その音はリヴァイの耳にも届き、布団の動きはハンジの目に映った。
沈黙が続く。
「リヴァイ、君のことは信頼していたんだよ」
「待て待て待て待て。妙な誤解をするんじゃねぇ」
「どっっからどう見てもそうじゃないか!! 言い逃れはできない。現行犯だ。弱ってるアリアを部屋に連れ込むなんて!!」
「声がでけぇ」
「挙げ句の果てに自分のベッドで寝かせて!? 信じられない。君はもっと誠実な人間だと──」
「リヴァイ、さん……?」
アリアの声がした。目覚めたのだ。
リヴァイはため息をつき、とりあえずハンジを部屋の中に入れた。これ以上廊下で騒がれるわけにはいかない。
「起きたか」
ベッドまで歩み寄り、言う。アリアは腫れぼったいまぶたをしょぼしょぼさせながら何事かを呟いた。
「リヴァイ、今すぐアリアから離れるんだ」
「落ち着けハンジ。とりあえずその構えをやめろ。説明する」
目を見開き、ファイティングポーズをしていたハンジは顔をしかめる。
もそもそとアリアが上半身を起こした。
「ハンジさん? なんでここに……?」
服は着ている。若干サイズが合っていないのが気になるが、しかしそういったことが行われた雰囲気はない。それにアリアは自分がこの部屋にいることを当然のように受け入れている。
(そんなことはないだろうと思っていたが)リヴァイが無理やり部屋に連れ込んだわけではないらしい。
そのことに安堵する。
渋々ハンジは構えを解いた。眉間のシワはそのままだ。
「わかった。話を聞こう。けどその前に、アリア。君は医務室に戻るんだ。みんなずいぶん心配している」