第10章 愛してる
ドアが激しくノックされている。外から誰かに名前を呼ばれている。
リヴァイは目を覚ました。
窓から爽やかな日の光が溢れていて、彼にしては珍しくすっきりとした目覚めだった。視線を動かせばぴたりと体を添えて眠るアリアがいる。彼女はあたたかく、それのおかげで目覚めが良いのだろう。
「リヴァイ!! いないの!? ドア蹴破るよ!!」
ハンジの声だった。ドアを拳で叩いている。朝っぱらから元気なものだ。
リヴァイはのそのそとベッドから起き上がり、鍵を開けた。
「朝からうるせぇぞ」
「朝って、君ねぇ、もう昼近いんだけど?」
どうやらずいぶん長い間眠っていたらしい。
ハンジに寝起きに関して呆れられるなんて。
あくびを噛み殺し、ドアの柱にもたれかかる。
「で、なんだ」
ハンジの顔は青ざめていて、何か巨人について面白い発見をしたわけではないらしい。本当に大変なことが起こったのだ。
「あぁ、そうだ、アリアが医務室にいないんだ。朝、様子を確認しに来た看護師が気づいた。7時ごろだったかな。グリュックは厩舎にちゃんといるし、あの怪我だから歩いてどこかに行ったとは思えない。でも兵舎の中をいくら探してもいないんだ。だから一緒に探してもらおうと思ってて。アリアの行方とか知らないよね? 知るわけないか、今まで寝てたっぽいし。あぁ、どこ行っちゃったんだろ、こんな季節に、あんな怪我で。見つけるのが少しでも遅くなれば……いや、そういうことは考えないほうがいいよね。それで、リヴァイ。リヴァイ? 何その顔」
スイッチでも入ったように喋り始めたハンジは、不意に言葉を切った。
リヴァイがなんとも言い難い表情をしているのを見上げて顔をしかめる。
「何か知ってるの?」
「アリアは無事だ」
部屋の中を一瞬見渡してからリヴァイは言った。
これから起こるであろうめんどくさいことを思いながら。