第10章 愛してる
お湯の粒がリヴァイの体を打つ。指先に血が通い始め、激しく痛む。だがそれが過ぎ去ればこわばっていた体が緩んでいくのがわかった。
あのあと、アリアがシャワーから出た後も一波乱あった。
彼女の背中を拭いた。後ろはうまく拭けないから、とお願いされてしまったら断れなかった。
しなやかに鍛えられた白い背中がまぶたに焼きついて離れない。あまりにも無防備にさらされた背中だった。リヴァイが今何を考えているかも知らずに、彼女は。
(……信頼してくれている証、か)
その信頼を裏切るわけにはいかない。心を強く持たなければならない。
それはそれとしてもう少し恥じらいを感じてほしいとは思うが、今のアリアに何を言っても無駄だろう。
早々に諦め、リヴァイはシャワー室を出た。
「アリア?」
さっきまでリヴァイが座っていたソファの上に、アリアが腰掛けていた。やはり服のサイズは合っていない。髪の毛は中途半端に湿っている。声をかけるが返事はなかった。
「アリア」
寝ている。
近くまで行き、そっと顔を覗き込むと、彼女は規則正しい寝息を立てていた。よほど深くまで眠り込んでいるのか、肩を揺すっても起きる気配がない。
さすがに怪我人をソファで寝かせるわけにはいかない。
リヴァイはアリアを静かに抱き上げて自分のベッドまで運んだ。
自身はソファで寝ればいい。幸いなことに、リヴァイはそこがどこであれ眠ることができた。
「リヴァイ、さん、」
ベッドに寝かせた衝撃で微かに目覚めたのか、アリアがモゴモゴと言った。
「どうした?」
目はほとんど閉じている。寝言のようなものを呟き、アリアは右手でリヴァイの服の裾をつまんだ。
「いっしょに、いて」
その手を振り払うことはできた。そうしたほうがリヴァイの安眠は確保できただろう。だが、当然、リヴァイにはそれができなかった。
幼くして両親を目の前で亡くし、今日まで弟のために頑張ってきた彼女の願いを聞き入れないなど。
リヴァイはため息を吐き、アリアの隣に身を横たえた。
優しく抱き寄せる。
アリアの寝息が再び聞こえる。
「おやすみ」
良い夢を。