第10章 愛してる
何も身につけていない膨らんだ胸が体に柔らかく当たる。
リヴァイは今すぐこの場から走り去ってしまいたかった。全てを投げ捨てて部屋を出たい。だがそんなことはできない。巨人と対峙するよりも遥かな緊張がリヴァイを苦しめていた。
地下街で女の裸体を見ることはそれほど珍しいことではなかった。娼館は至る所にあったし、どこかの誰かに身ぐるみを剥がされ路地裏に転がる女も見たことがある。ほとんど義務的にではあるが、性欲処理のために女を抱いたことも何度かある。
だが、いくら経験があろうとも好きな女に胸を当てられて平常心を保っていられるような男がいるだろうか。否、いるわけがない。
こんなことになるなら部屋に招かないほうがよかったか? しかしこれ以外に良い選択肢は浮かばなかった。ならば仕方のないことだ。今さら後悔したところでもう遅い。
「ありがとうございます、リヴァイさん」
さて、リヴァイがそんなことを考えているとはつゆ知らず、アリアは言った。包帯を外せて楽になったのか、少しだけ彼女の声は明るくなっていた。
「気にするな」
言いながら、リヴァイは包帯を集めた。これは捨てておこう。
「また何かあったら呼べ」
どこまでも落ち着いた声で言う。
シャワー室に入っていったアリアに背を向け、早足でソファまで行く。そこに身を沈め、リヴァイは深く長い息を吐き出した。
この調子では心臓がいくつあっても足りない。
まだ夜は長いというのに。
人々から人類最強と呼ばれ、巨人の大群を見ても眉ひとつ動かさない彼は、たった一人の女性を相手に情けなく慌てていた。