第10章 愛してる
「母の言葉がなくても、わたしはきっと弟のために生きたでしょう。わたしは人のためにしか生きられないから。そういう星の下に、生まれたんだと思います」
その言葉の意味がリヴァイには理解できなかった。
だがそれでも構わないのだろう。アリアは薄く笑った。
「でもいまは、いまだけは、あの子のために生きるのが、しんどいんです」
リヴァイは何も言わずアリアの髪を撫でていた。
言うべき言葉を探しながら、アリアの息遣いを聞いていた。
「だから、もう一度だけ、言ってくれませんか」
縋るように、アリアはリヴァイの服を掴む。
リヴァイは息を吸った。
「──俺のために生きてくれ。アリア」
これが何かの解決になるとは到底思えなかった。
アリアはこれからも母の最期の言葉に苦しみ、悩むだろう。全てを放り投げて死にたいと思う日もくるだろう。けれど、それでいいんだ。それでも死なずに生きていれば、いつか本当にアリアの辛さを解決できる日が訪れるかもしれない。リヴァイにはそれを待つだけの覚悟があった。
「そうして、また弟のために生きてもいいと思えるようになったのならそうすればいい。俺は止めはしない。ただ、もし」
見たこともない“海”に思いを馳せる。
アリアと並んでそれを見る日を想う。
「もしも、アルミンの夢を叶えたら。母親の言葉から解放された日がきたら」
そのときアリアは笑っているだろうか。笑っていてほしい。
リヴァイはアリアの笑顔が見たかった。
「そのときは、俺と共に生きてくれ」
弟のためでも、母親のためでも、リヴァイのためでもない。自分のために生きると決めたアリアと共に生きたい。
それがリヴァイの願いだった。
「はい。リヴァイさん」
アリアは涙を流し、頷いた。