第10章 愛してる
「わたしは死ななくちゃいけないんです。わたしは、ずっと、逃げてきたから」
アリアはしゃくり上げながら言った。
幼い子どものように泣きじゃくりながら、聞き取りづらい声で、一生懸命。リヴァイは黙ってそれを聞いていた。
「オリヴィアが死んだ時も、死にたいくらいの絶望を背負って、それでも死ななかった。こわかったから。しぬのが、こわかったから」
彼女は掴まれていない方の手で涙をむちゃくちゃに拭った。鼻水が垂れていた。みっともない顔だった。リヴァイはアリアを抱き寄せた。
肩口に額を乗せてやる。背中に手を回す。お互いの熱を分け合うようにアリアの髪に顔をうずめる。
「さんざん言い訳をして、逃げて、にげて、そうしてまた、たいせつな人たちがしんだ。今度こそ、にげるわけにはいかなかった」
嗚咽が体に響く。悲しみがリヴァイの心を震わせる。
「もうぜったいに、みすてないって、ちかったのに」
誓ったのに。
その誓いを破ってしまった。
エルヴィンを、信頼する上官を殺してまで守ろうとした誓いを、結局は。
「だからわたしは、しななくちゃいけないんです」
「くるしいんです」
「つらいんです」
「……だれかのために生きるのが、こんなにしんどいなんて」
「おもわなかったんです」
きっと、アリアは今、アルミンのことを思い出しているのだろう。
大切な仲間の死と、愛する弟と交わした約束がアリアを追い詰めている。彼女はずっと、ギリギリの場所に立っていて、自分でも気づかないうちにそんなところまで追いやられてしまっていた。
「あのね、リヴァイさん」
アリアは囁く。
「わたしの両親は、気球に乗って壁の外に行こうとしていたんです」
全ての感情を押し殺したような声音だった。
本に記された記録をなぞるみたいに、その声は潤いと抑揚を欠いていた。