第10章 愛してる
髪から水滴が落ちる。白い息が立ち昇る。手は寒さで震えていた。伸ばす。同じように震えている彼女の手を掴む。アリアは鼻の頭をくしゃくしゃにして泣いていた。
「俺は、お前に死んでほしくない」
「わたしは、死にたいの」
「だめだ」
「だから、なんでっ」
「俺は」
思い出す。
アリアと共に不寝番をした夜のことを。
肩に乗った、彼女の重み。かすかに聞こえる寝息。キャラメルの紅茶を美味しいと言った声。
守らなければいけないと思った。この手の届く限り、守りたいと思った。
思い出す。
一緒に紅茶屋へ行った冬の日を。
軽やかに揺れる金色の髪。雪のことを教えてくれる穏やかな声音。紅茶を選ぶ真剣な横顔。リヴァイのことを「優しい人」と言い切ってくれたあの瞬間。
「俺は、」
心の奥が熱くなったんだ。その笑顔をそばで見ていたいと思ってしまった。その優しい声をずっと聴いていたい。お前さえいれば、あとは何もいらないと思えるくらい。
「お前が、好きだ」
手を、強く握りしめる。
「愛してる」
喉が情けなく震えた。
でもきっと、寒さのせいだ。
「だから、死んでほしくない」
震えを止めるために、リヴァイは言った。
アリアの見開かれた目を見据えて言った。