第10章 愛してる
エルヴィンはひとつ頷き、アリアに背を向けた。
雨が降っている。
だが、夜が訪れた。
アリアはそれをぼんやりと思いながら、ついに意識を手放した。
それからおよそ一週間、アリアが目を覚ますことはなかった。そうして次に目覚めた時、そこはすでに壁内で、医務室のベッドの上だった。
* * *
アリアは瞬きをしていた。真っ白な天井を見上げ、思考回路を繋ぎ合わせていく。
あの日、意識を失ってからどれくらいの時間が経過しているのかアリアは知らなかった。だが、今が夜であることは、静まり返った医務室と窓から差し込む月明かりによってわかった。
両腕はしっかりと添え木で固定されている。
肋骨の辺りも包帯できつく縛られているのだろう。息苦しさがあった。
どれくらいの日数眠っていたのかはわからないが、ここしばらくちゃんとした食事をしていないらしい体はひどく重たかった。
おそらく、巨人捕獲作戦は実行されなかった。
巨人の襲来によって多くの兵士の命が散った。そしてそれは特別作戦班の彼らも例外ではないはずだ。
ナスヴェッターが、エルマーが、いつもの調子でカーテンを開けて「やっと起きたんだな」と言ってくれるのを想像した。想像して、涙が頬を伝った。彼らは死んでしまった。アリアにはそれがわかった。
眠っている誰かを起こさないように、アリアは必死に嗚咽を堪える。枕に顔を埋めようにも寝返りが打てない。だから歯を食いしばり、唇を噛み締めるしかなかった。
そうして泣き続け、これ以上泣けないと思った時、アリアの心にひとつの決意がかたまった。