第10章 愛してる
どれだけ走っただろうか。
点々と垂れた血が地面に続いている。アリアは浅い息を繰り返しながらグンタの背中に額をつけていた。
「もうすぐです、アリアさん」
アリアは霞む視界の中、補給地点の天幕を見た。
人の話し声がする。ぱちぱちと焚き火の爆ぜる音もする。安堵が体の奥から溢れた。
「アリア?」
グンタに抱えられるようにしてアリアはグリュックから降りた。もうほとんど足に力が入っていなかった。
名前を呼ばれ、顔を上げる。
「リヴァイ、へいちょう」
雨粒が体を打つ。閉じることすらできず、開けっぱなしになった口に雨粒が当たる。
リヴァイは目を見開き、アリアに駆け寄った。
「何があった。早く治療を」
「リヴァイ兵長」
アリアはグンタの腕から身を乗り出し、リヴァイの胸ぐらを掴んだ。伝えなければいけないことがあった。
両腕は折れている。それでも、その痛みを無視しなければならない。今だけは。
「増援を、南に巨人が多数出現し、ナスヴェッターさんたちが戦ってくれています。だから、はやく、たすけにいかないと」
「アリア」
「おねがいです」
「アリア、聞け」
「おねがい」
「増援は許可できない」
アリアは息を止めた。
リヴァイの後ろにエルヴィンが立っていた。今の言葉は彼から放たれたものだった。
「そんな」
グンタが力無い声で言った。
アリアは顔を歪める。エルヴィンの言葉を理解しようとしてそれができない。
「なんで、」
助けを求めるようにリヴァイを見る。だが彼は苦しそうに目を逸らしただけだった。
「この数時間で兵士に死傷者が多く出ている。これ以上巨人に兵士を食わせるわけにはいかない。そしてもうすぐ夜だ。増援は必要ないと判断した」