• テキストサイズ

雨上がりの空をあなたと〈進撃の巨人〉

第10章 愛してる



 どれだけ走っただろうか。

 点々と垂れた血が地面に続いている。アリアは浅い息を繰り返しながらグンタの背中に額をつけていた。


「もうすぐです、アリアさん」


 アリアは霞む視界の中、補給地点の天幕を見た。
 人の話し声がする。ぱちぱちと焚き火の爆ぜる音もする。安堵が体の奥から溢れた。


「アリア?」


 グンタに抱えられるようにしてアリアはグリュックから降りた。もうほとんど足に力が入っていなかった。
 名前を呼ばれ、顔を上げる。


「リヴァイ、へいちょう」


 雨粒が体を打つ。閉じることすらできず、開けっぱなしになった口に雨粒が当たる。
 リヴァイは目を見開き、アリアに駆け寄った。


「何があった。早く治療を」

「リヴァイ兵長」


 アリアはグンタの腕から身を乗り出し、リヴァイの胸ぐらを掴んだ。伝えなければいけないことがあった。
 両腕は折れている。それでも、その痛みを無視しなければならない。今だけは。


「増援を、南に巨人が多数出現し、ナスヴェッターさんたちが戦ってくれています。だから、はやく、たすけにいかないと」

「アリア」

「おねがいです」

「アリア、聞け」

「おねがい」

「増援は許可できない」


 アリアは息を止めた。
 リヴァイの後ろにエルヴィンが立っていた。今の言葉は彼から放たれたものだった。


「そんな」


 グンタが力無い声で言った。
 アリアは顔を歪める。エルヴィンの言葉を理解しようとしてそれができない。


「なんで、」


 助けを求めるようにリヴァイを見る。だが彼は苦しそうに目を逸らしただけだった。


「この数時間で兵士に死傷者が多く出ている。これ以上巨人に兵士を食わせるわけにはいかない。そしてもうすぐ夜だ。増援は必要ないと判断した」



 
/ 458ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp