第10章 愛してる
遠くにあったはずの雨雲が雨を降らせていた。
弱々しく降り始めたそれは、瞬く間に本降りになる。ゴロゴロと雷鳴が轟いた。
アリアの意識は再び沈みそうになっていた。体温が奪われていく。ただでさえ出血多量で体温が低くなっているというのに。
「……すみません、アリアさん」
グンタが言った。彼も苦しいはずだが、その声に震えはなかった。ただ悔しさだけが滲んでいた。
「俺も、戦えたら」
「……わたしも、だよ」
同じことを思っている。
あの時、うまく巨人をかわせていたら。掴まれても自力で抜け出すことができていれば。そうすればこんな怪我を負う必要もなかったのに。そして、彼らと共に戦えたはずなのに。
「でも、わたしたちに、できるのは」
荒い息を繰り返す。寒さで歯の根がカチカチと音を立てた。
「増援を、連れて行く、ことだから」
リヴァイさえいれば。彼さえいれば、きっと全員の命を救うことができるはずだ。彼は今、どこにいるのだろうか。
アリアはまぶたを震わせた。
「わたしはぜったいに、仲間をみすてない」
もう、あの時のような後悔は味わいたくない。
脳裏に初陣の記憶が蘇る。
巨人に咥えられたオリヴィア。わたしに助けを求めるあの子。怪我もしていないのに、立体機動装置だって無事なのに、たくさん訓練を積んだのに。
アリアは彼女を助けることができなかった。
──なんでたすけてくれないの
冷え切った声が、冷え切った瞳が、アリアを見下ろす。
あの日の記憶は今もアリアを苦しめる。
あの時、彼女を助けていれば何かが変わっていただろうか。わからない。考えても仕方のないことだから。
「何が、あろうと」
だが誓ったのだ。
あの日、アリアは誓った。
もう二度と仲間を見捨てることはしないと。持ちうるすべての力を使って、仲間を助けるのだと。
そして、今がその時だ。