第10章 愛してる
悪夢だ。
目を細め、エルマーは思った。
巨人たちは真っ直ぐこちらに向かって走ってくる。全部で7体。戦えるのは3人。しかもひとりは戦い慣れていない新兵だ。
しかし、のんびりと考えている暇はなかった。
「グンタ、アリアを連れて逃げろ。その馬の足があれば大抵の巨人からは逃げ切れる」
「……はい」
「フローラ、急で悪いが覚悟を決めろ。これがお前の初陣だ」
「わ、わかり、ました」
「ナスヴェッター」
「構いません」
アリアは一連の流れをどこか遠いところから見ていた。
アリアを支えるように後ろにグンタが乗った。手綱を握る。そこでようやく、アリアは声を取り戻した。
「そんな、」
エルマーとナスヴェッターは走る巨人を見据えていた。
フローラは涙を拭い、それでも真っ直ぐ立っていた。
「まって」
「アリア」
ナスヴェッターが振り返り、アリアに優しく微笑みかけた。
絶望的な状況だ。それなのに、その微笑みはどこまでも穏やかだった。
「あとは頼んだよ」
彼らは死を、覚悟している。
アリアは目を見開いた。
ここに残って一緒に戦いたかった。こんなところで敵に背を向けて逃げるなんて。だが、今のアリアは戦えない。足手まといになるだけだ。わかっている。わかっているのに、嫌だった。
「増援、を、つれて、きます」
必ず、わたしが。何があろうとも。
アリアは涙を流した。
ナスヴェッターは笑って頷いた。
「あぁ!」
グンタがグリュックの腹を蹴り、ふたりは駆け出した。
それと同時に、雨が降り出す。