第10章 愛してる
闇の向こうで誰かに呼ばれているような気がした。
鉛が詰まったように重たい腕を声に向かって動かす。
(オリヴィア?)
心の中で問いかける。
わたしは、死んだのだろうか。
「──アリア」
いや、この声はオリヴィアじゃない。まぶたを開きたいのに、それができない。体が冷えていく。寒い。誰が、わたしの名前を呼んでいるの?
「アリア、アリア!」
今にも泣きそうな声で、誰が、わたしを
「アリア!!」
アリアは目を開けた。
地面に横たわっている感覚があった。遅れて痛みが全身を襲う。
「生きてる、エルマーさん、アリア、生きてます」
「あぁ、見りゃわかる。死にかけだがな」
「アリアさん、よかった……」
この声は、ナスヴェッターとエルマーだ。それとフローラもいる。
3つの顔が心配そうにアリアを覗き込んでいた。
「アリア、聞こえるか?」
返事をしようとして声が出なかった。
「はいの時は俺の手を1回握れ。いいえは2回だ」
右手をエルマーに握られている。弱々しく、その手を1回握った。
「よし、意識はあるな。アリア、今からリヴァイ兵長と合流して補給地点を目指す。お前はナスヴェッターの後ろに乗れ。あの負傷兵はフローラ、お前の後ろだ」
「は、はい」
「奇行種は全部殺した。まだ2体残っているが、どういうわけかあいつらは動こうとしない。あれだけ派手にやったのに、こっちに興味すら示さない。奇行種かもしれない。が、どちらにせよもうすぐ夜だ。すぐに動かなくなるだろう」
夕焼けが雲を赤く染めていた。
夜が訪れるまであと少しの辛抱だ。
「エルマーさん、北の巨人はどうなったんですか?」
「あらかた殺してきた。あとはリヴァイ兵長一人で十分だろうと判断してここに来たんだ。来てよかったと心から思うぜ、まったく」