第10章 愛してる
6体目の出現だった。
最初に殺した巨人の蒸気に吸い寄せられたのだろうか。四足歩行で走ってきたそれはアリアの体を持ち上げた。
「ぐっ、ぅう!」
その力は強く、もがいても抜け出せない。腕ごと掴まれているせいで立体機動もできない。アリアは口を開けた。息が、
「アリアさん!」
フローラはガクガクと震えながらもブレードを握りしめた。
今、この場でアリアを助けられるのは自分しかいない。ナスヴェッターは負傷兵を抱えているから簡単には動けない。動きがないだけで、彼らのそばにも巨人はいるのだ。
「私が、助けなきゃ、助ける、たすけるの」
恐怖で涙がこぼれる。この間にもアリアの体はギチギチと音を立てて絞められている。アリアは苦しさからのけぞった。白い喉元が晒された。
言葉にならないうめき声が溢れる。アリアは目を見開き、空を睨んでいた。呼吸は止まっていた。巨人の手は万力のように胴体を絞めあげていた。ぎしぎしと骨が軋む。意識が白く霞んでいく。
そうして、その体は押し潰された。
ごぼ、と口から血が溢れた。全身から力が抜ける。
やがてアリアはぴくりとも動かなくなった。
「アリア!!」
ナスヴェッターが叫ぶ。しかしその声もアリアには届かない。
青年兵士を横たわらせ、ナスヴェッターは飛ぼうとした。アリアが巨人の口に運ばれていくのを黙って見ているわけにはいかなかった。
「くそ、邪魔なんだよ!」
だがアリアの元へ行こうにも、まるで壁となるようにナスヴェッターの前には2体の巨人がいた。家を破壊し終えた奇行種だ。
いいや、たとえ一人だろうとこいつらを殺さなくてはならない。なんとしてでもアリアを助けなければならない。ナスヴェッターは怒りに燃えていた。
「アリア、さん」
アリアの体から降ってくる血を浴びながら、フローラは呆然と呟いた。
巨人は抵抗をやめたアリアを口に運んでいく。大きく開いた汚い口へ。
刹那、巨人の背後で血が舞った。