第10章 愛してる
背後に途方もない気配があった。
「アリア!」
「ナスヴェッターさん!」
二人は同時に叫んだ。後ろを振り返るまでもない。それぞれの背中に巨人が立っていた。
アリアは女兵士を、ナスヴェッターは負傷している青年兵士を抱え、咄嗟に遠くへ跳んだ。
アンカーを木に刺し、地面を滑る。その瞬間、さっきまでアリアたちがいた民家が巨人によって破壊される大きな音が響いた。
「怪我は!?」
「あ、ありません」
腕の中で女兵士は言う。
「あなた、名前はなんていうの?」
「へ、名前?」
「いいから」
「フ、フローラです」
息を整える。
新たに出現した2体の巨人。あれらが奇行種だろうか。
「フローラ、あなたはまだ動ける?」
「は、はい。怪我もしてませんし、立体機動装置も無事です」
フローラは新兵だった。着ている兵服はまだかたく、顔つきも幼い。だが「まだ動ける」と言って頷いたその表情は覚悟を決めていた。
アリアは安心させるように微笑む。
「なんとかしてわたしとナスヴェッターさんで隙を作るから、あなたは彼を連れて逃げて」
彼、と言いながらナスヴェッターと共にいる青年兵士を指差す。
フローラは驚いたように目を見張った。
「でも、私、戦えます」
「彼は一刻も早く衛生兵のところに連れて行かないと死んでしまう」
「あ、あなたたちは?」
「わたしたちはここに残って戦う。それがわたしたちの仕事だから」
アリアはナスヴェッターに合図を出した。
彼はそれを理解し、青年兵士を抱え直した。
民家を破壊した奇行種2体はまだ同じところにいる。徹底的に家を踏み潰していた。まずはあの奇行種を殺さなくては。それさえできれば残りの通常種は放っておいても構わない。
その時、遠くから地鳴りがあった。
何かがこちらに向かって走ってくる。それもとてつもないスピードで。
(巨人ッ──!)
「アリアさん!!」
フローラが叫んだ。
振り返る暇もなかった。フローラを突き飛ばした瞬間、アリアの体は宙に浮いていた。