第10章 愛してる
「まずは孤立してるあの巨人からだ」
おそらく通常種であろう3体の巨人は群れになっているわけではなかった。
内2体は近くに寄っているが、小柄な巨人が1体だけいて、それは少し離れた民家のそばにしゃがんでいた。何かを見ているらしく、アリアたちが近づいてきているのにも気づいていない。
「うなじがガラ空きだ。僕がいく」
「わかりました」
ナスヴェッターは鞍の上に立ち、アンカーを飛ばした。
とんっと空中に身を投げる。アンカーは巨人のうなじに直接刺さっていた。
巨人が突然動いたりすれば危険だが、今対峙している巨人はこちらに全く興味を示していない。
ガスを蒸し、一気にうなじへと近づく。ブレードを振り上げ、ナスヴェッターは至極冷静にその肉を削ぎ取った。肉片が空を飛ぶ。血が噴き出し、ナスヴェッターはもちろん、そばにいたアリアもそれを被った。
「負傷兵だ」
顔についた血を拭いながらナスヴェッターは言った。
アリアはナスヴェッターの馬を引き連れてそこへ近寄った。
「負傷兵?」
グリュックから降りる。巨人が覗き込んでいたのは民家の裏手だった。
そこには確かに二人の兵士が座り込んでいた。
アリアはちらりと残り2体の巨人を見た。奴らもまだアリアたちには気づいていない。
「た、助けてください」
今にも消えそうな声で女兵士が言った。見たところ彼女は怪我をしていない。だが、その隣でぐったりと俯いた青年兵士は腹から血を流していた。
「君たち、何があったの」
アリアはすぐさま青年兵士のそばにしゃがむ。口元に手をかざす。息はしている。ひどく弱ってはいるが。
ナスヴェッターの問いかけに女兵士は震える声でつっかえながらも言った。
「と、突然、巨人が5体現れて、それで、みんな、中には奇行種もいて、」
「5体?」
応急処置として青年兵士の止血をする。出血が多い。早く衛生兵の元まで連れて行かなければ。
アリアは手を止めた。ナスヴェッターを振り返る。彼は理解に苦しむように顔を歪めていた。
「僕たちは巨人を3体しか見ていないんだ」
「……ナスヴェッターさん」
どうして、見落としていたのだろうか。
奴らはずっとそこにいたのに。