第3章 正しいと思う方を
明らかに衝撃を受けている姉にアルミンは言葉を続けた。
『なんて言えばいいかわからないけど、姉さんは家族や親しい人以外をどうでもいいと思ってる、気がするんだ。でもたぶんそれに気づいてる人はぼくくらいなんじゃないかな』
アリアは馬に伸ばしていた手をぱたりと落とした。
「まさか分隊長にもそう言われるなんて思ってもみませんでした。ということはやはりわたしは……」
たしかにアルミンやエレン、ミカサが楽しく健康で暮らしているのならあとはどうだっていいとは思ったことはある。アルミンのためならなんでもできる。
けれどその思いが表面に出てきてはいないと思っていた。
「どうすればいいですかね……。わたし個人はちゃんとすべての人に心を込めて接しているつもりなんですけど」
「君が心を込めて接していると思っているならそのままでいいと思うよ。馬については……訓練を重ねるうちにきっと心が通じるはずさ」
愛馬をひと撫でしたエルヴィンは腕を組んだ。
「その上で、君はどの馬を相棒に選ぶ?」
――どの馬を。
アリアは再びずらりと並ぶ馬を見た。
「……あ」
アリアは小さな声をあげた。
1頭の馬と目が合ったのだ。
純黒の毛色をした馬だった。光すら吸収してしまいそうな色をしていた。長い睫毛に囲われた瞳がアリアの声につられてこちらを見据えた。
その馬はアリアと同じ青い瞳をしていた。
目が合った瞬間、アリアは動けなくなった。
「……どうした?」
エルヴィンやアルミンの言いたいことがわかったような気がしたからだ。
その馬の目は感情のすべてを遮断するように暗かった。
どうでもいい。諦観さえ感じる目をしていた。
「こ、この子は……?」
「……あぁ、彼にするのかい?」
「えっと、はい。この子にしたいです」
聞かれて、反射的に答えていた。
エルヴィンはなにかを考えるように顎に手を当て、顔を上げるとその馬に手を伸ばした。