第9章 姉さんの隣で海を見たい
「それで、この道具の使い方だけど」
言いながら、ハンジはそばに置いていた巨大な板をヨイショと持ち上げた。アリアは首を傾げる。
「これを巨人だと思ってくれ。モブリット、頼むよ」
その板には大きな石が重石のようにくっついていた。
何だろう、と疑問を口にする暇もなかった。
ハンジの合図を聞いたモブリットが樽の一つについていた紐を引っ張った。その瞬間、爆発音のようなものと共に、樽の蓋部分に空いていた無数の穴からワイヤーが飛び出したのだ。その先端にはアンカーがついていて、発射されたそれは勢いよく板に突き刺さった。
どういう原理なのかはわからないが、なるほど。これで巨人を固定するのか。
「一つだけだと効果がわかりにくいとは思うけど、ここにあるもの全てを使ったら普通の巨人はぴくりとも動けなくなるはずだ」
ハンジは突き刺さったワイヤーを見上げ、どこか嬉しそうに言った。
「私たち第四分隊が道具の設置と起動を行う。君たち特別作戦班には巨人の囮になってほしい。リヴァイと話した結果、その囮役をナスヴェッターとアリアに。その後、念の為巨人のアキレス腱を削いでもらうんだけど、それをリヴァイとエルマーに頼みたい」
異論のない配分だ。
より危険な役回りを歴戦の兵士であるエルマーと、並外れた身体能力を持つリヴァイが担当する。無難だ。
「リヴァイ兵長とハンジ分隊長が決めたのなら言うことは何もありません。任務を全うします」
アリアが言うと、ナスヴェッターも真面目な顔で頷いた。
「俺とリヴァイがいればなんとかなりますよ」
楽観的に言って、エルマーは笑った。
ハンジは口角を上げて顎を引いた。その目はようやく訪れた巨人捕獲のチャンスにきらきらと輝いている。
「ようし! なら早速訓練だ! みんな準備してくれ」
意気揚々としたハンジの声に、全員が動き出した。