第9章 姉さんの隣で海を見たい
しゅん、と項垂れたエルマーはいそいそと寝癖を押さえつけ、パンくずを口に放り込んだ。シャツのボタンの掛け違いには気づいていないようだった。
リヴァイはため息をつき、ハンジと向き合う。その拍子にエルマーと目線がかち合い、彼は舌を出して笑った。
アリアは苦笑を返してから表情を引き締める。
「じゃあ全員揃ったことだし、説明を始めよう」
パン、とハンジは手を叩く。それと同時に樽の設置が完了したらしいモブリットたちが集合した。
「まず、次の壁外調査で巨人捕獲の許可が出た。それはみんな知っているね?」
全員が頷く。
「このたくさんの樽は巨人捕獲のための道具だ。使い方説明の前に、どのような手順で捕獲を行うのかを伝えておこう。巨人捕獲のタイミングは壁外調査の最終日だ。壁内への帰り道にて決行する」
ハンジは一旦そこで言葉を切り、全員の顔を見渡した。誰も何も言わない。唇を湿す。
「捕まえた巨人は荷馬車に乗せて運搬するため、できるだけ小柄な個体が望ましい。移動中は夜間であろうと常に遮光性に優れた布を被せておく。すでに開発済みだ。技術班の賜物だね。だが、わかっているとは思うが最も優先すべきは人命だ。たとえ巨人を捕獲したとしても人死にが出たら元も子もない」
生きたままの巨人を捕獲する。
それは今のアリアにはイマイチ想像しにくいことだった。
巨人は脅威だ。脅威は排除しなければならない。そうしなければ死ぬからだ。アリアは訓練兵団でそう教わり、調査兵団でそれを強く実感した。
それなのに、殺すのではなく捕らえる。
ハンジのように巨人そのものに興味を持つ人間でなければ思いつかないだろう。しかし巨人の謎を解き明かすことは確かに、人類の勝利に必要なことだった。
「そのため、この作戦は少数精鋭で行う。君たち特別作戦班の力を貸してほしい」
ハンジの言葉にアリアは強く頷いた。
自分の力が役に立つのなら何だってする気だ。