第9章 姉さんの隣で海を見たい
アリアは緊張した面持ちで目の前に並ぶたくさんの樽を見ていた。
「これが、巨人の捕獲道具?」
隣でナスヴェッターが不思議そうな声を上げた。
樽のそばに立つハンジは得意げに頷いた。
「そうだよ! ま、詳しい説明は全員揃ってからだ」
アルミン、リヴァイと共にケーキを食べてから一週間が経過していた。5日後には第28回壁外調査が行われる。調査兵団はその準備に追われていた。
そしてそれは特別作戦班も例外ではない。
「エルマーの奴、寝坊か?」
アリアの右隣に立つリヴァイは腕を組み、不機嫌そうに呟いた。今、この訓練グラウンドにはエルマーを除く特別作戦班と、ハンジ率いる第四分隊のメンバーが揃っていた。
次の壁外調査で行う巨人捕獲の訓練のためだった。
「まぁ、まだ時間はありますし」
モブリットが樽の一つを運びながらのんびりと言った。
ニファやケイジ、アーベルたちも樽を一定の間隔を空けて設置している。ちょうどアリアたちの立つ場所を囲うように。
この謎の樽がどんな働きをするのかを知らないのはアリアとナスヴェッター、そしておそらくエルマーだけだ。
困惑しつつも、アリアはナスヴェッターと顔を見合わせた。
何が起こるのかさっぱりだが、ハンジの説明を待つことしか今はできない。
「遅れました!!」
その時、兵舎の方からエルマーの声がした。振り返ると、彼は立体機動装置をつけながら走ってこちらに向かっていた。近づいてくるにつれて、彼の髪に嘘のような寝癖がついていることに気がついた。口の端にはパンくずまでつけている。
リヴァイの言っていた通りこれは完全な寝坊だ。
「何してやがった」
「み、道に迷っていたお婆さんを助けてました!!」
「ほう、そうか。俺には寝坊したにも関わらずとりあえず朝食を詰め込もうとしたようにしか見えねぇが」
「スンマセン」