第9章 姉さんの隣で海を見たい
リヴァイは心の底から不思議そうな声を出した。彼にしては珍しく、それは驚くほど気の抜けたものだった。
ぴゃ、とアリアは肩をすくめる。
「すす、すみません、そんな、なんかリヴァイさんが笑わないみたいな言い方しちゃって」
「俺もそれなりに笑う方だと思っていたが……」
「でも、なんだか違ったんです」
今の微笑みは。
アリアもリヴァイの微笑みを初めて見たわけではない。ささやかではあるが、笑っているところは何度か見かけている。調査兵団の兵士の中にはリヴァイ兵長は笑わない、とかいう噂が流れているが。
しかしとにかく、リヴァイのその微笑みはアリアの心を激しく揺さぶった。甘く、照れてしまうくらい優しい微笑みだった。勘違いしてしまいそうなくらいに。
「さっき、なにを考えて笑ったんですか?」
うぅん、と唸るアリアを横目に、アルミンは遠慮がちに聞いた。
アリアがリヴァイを好きなことは明白だ。わかりやすすぎる。そしてリヴァイもまた、アリアに悪い感情は持っていないのだろう。でなければ甘いものを食べないのにケーキを食べに行こう、なんて誘うはずがない。……もしかして、両想いだったりして。
「あ? さっきは……」
両想いならば結ばれてほしい。姉には幸せになってほしい。人並みの幸せを手にしてほしい。だったらアルミンにできることはアリアの背中を押すことくらいだ。
アルミンの問いに、リヴァイは目を細めた。
無意識の微笑みだったのか、答えが出てくるまでに少し時間がかかっていた。
やがて、はたっとなにかに思い当たったらしい。
わずかに眉間にシワが寄る。
「……さぁ、わからねぇな」
アルミンは瞬きをした。誤魔化した。人類最強がなにかを誤魔化した。
鋭い三白眼がアルミンを見る。
「わざと聞きやがったな?」
その瞳を恐ろしいとは思わなかった。ずっと奥に、柔らかい光があったからだ。だれかを愛おしいと思う光。それは間違いなく、アリアへ向けられる光だ。
「えへへ」
アルミンは笑った。イタズラがバレた無邪気な子どものような笑顔だった。