第9章 姉さんの隣で海を見たい
「リヴァイさんも、ありがとうございます。わたしをここに誘ってくれて」
ゆったりと紅茶を飲んでいたリヴァイは、ティーカップをソーサーに戻し、ゆるく首を横に振った。
「俺のわがままみてぇなもんだ」
そしてなにかを考えるような素振りを見せて淡く微笑んだ。
「だが、誘ってよかったと心から思っている」
アリアは目を見開き、まじまじとリヴァイの顔を見た。しかしすぐに目を逸らしてたまらずアルミンを抱き寄せる。
「うわっ、姉さん? どうしたの?」
ぽすん、とアリアの胸に収まったアルミンは驚いて言った。向かいのリヴァイも不思議そうにアリアを見ていた。
「リ、リヴァイさんのあんな表情初めて見た」
それは本当に小さな声だった。だれかに言っているというより独り言だ。心に浮かんだ言葉が思わずこぼれた、とでもいうような。
耳をすませると、アリアの心臓が荒ぶっているのがわかる。アルミンは思わず噴き出していた。
「直接言ったらいいじゃん」
「へっ、聞こえてたの!? いや、でもえぇと、いくらなんでも失礼になるし」
「おい、なんの話だ。俺の顔になにかついてたか?」
「い、いえ! なんでもありません!」
「……姉さん」
「アルミン! その呆れた顔やめて!」
じとーっとしたアルミンの視線から逃れるようにアリアはパッと離れる。深呼吸を何度かして、改めてリヴァイを見た。あの微笑みはまだ残っていた。
「それで?」
「えぇっと、その……」
手をいじいじと動かす。アルミンに助けを求めるが、彼はケーキを食べる作業に戻っていた。もちろんしっかりとこちらの様子を見守っているのがわかる。
お、弟に恋路を見守ってもらうなんて……!
特になにか言われたわけではないが、賢いアルミンのことだ。アリアがリヴァイを好きなことくらい見抜いているのだろう。
アリアはしばらく「あー」とか「うぅ」とか唸ったあと、リヴァイを見据えた。
「し、失礼かもしれないんですけど」
「あぁ」
「……リヴァイさんが、そうやって微笑むところを初めて見たのでびっくりしちゃって」
「…………は?」