第9章 姉さんの隣で海を見たい
「どれにしようか迷っちゃって、結局シンプルなもの選んじゃった」
軽やかな声がして、アリアがアルミンの隣に座る。その手には白い小さな箱が握られていた。
「これ、エレンとミカサといっしょに食べてね。チョコケーキと苺のケーキとモンブラン!」
「チョコケーキ!?」
アルミンは思わず素っ頓狂な声を上げた。
チョコレートなんて高価なもの、食べたことはもちろんないし目にしたこともない。そんなチョコレートをふんだんに使ったケーキなんて……!
アルミンがなにを心配しているのかがわかったらしいアリアは柔らかく笑った。
「大丈夫大丈夫! こう見えて姉さんしっかり稼いでるんだから」
「金の使い道なんてそうねぇんだから甘えとけ」
アリアの言葉にリヴァイが頷く。それに同意するようにアリアも「リヴァイさんの言う通り!」と言った。アルミンは一瞬悩み、その箱を受け取った。少し重くて、かすかに甘いかおりがした。胸がきゅっと詰まる。
「ありがとう、姉さん」
アルミンはアリアを見上げ、笑った。
「どういたしまして、アルミン」
アリアは心底幸せそうに笑ってアルミンの頭を優しく撫でた。あたたかい手だった。
「あなたといっしょにここに来れてよかった」
「……え?」
アリアは頬にかかった髪を耳にかける。飲みかけの紅茶に手を伸ばし、そっとティーカップに口をつける。アルミンは姉の言いたいことがいまいちわからず首を傾けた。
「アルミンとこうして美味しいものを食べられて、嬉しそうな笑顔も見られて。姉さんはそれが本当に幸せなの」
だから、ありがとう。
アルミンは薄く口を開いたままなにも言わなかった。言葉が出てこなかった。アリアは気づいていたのだ。アルミンが「自分がここにいていいのだろうか」と悩んでいることに。やっぱり姉さんはなんでもお見通しだった。
ただ頬を赤くして俯いた。