第9章 姉さんの隣で海を見たい
目を開き、真っ直ぐにリヴァイを見据えた。彼は目尻をわずかにゆるめた。
「姉さんはぼくに海を見せるために調査兵団に入ったんです。もっとちいさいころに、ぼくが海を見たいって言ったから」
「あぁ」
「でもぼくは、姉さんに海を“見せてもらう”んじゃなくて、姉さんの“隣”で海を見たいんです」
同じ海を見るという結末でも、それは天と地ほどの違いがあった。姉に頼るだけ頼り、最後まで甘えたまま海を見るか。それとも、自分の力で姉の隣に並び、共に海を見るか。アルミンは後者でありたかった。
「だからそのために、ぼくは調査兵団に入りたい。入るんです」
話していくうちに、じわりと涙が溜まっていく。口を開けて息を吸う。涙がこぼれないように必死に堪える。
「ぼくは幼なじみと比べてずっと弱くて、ずっと守られてばかりでした。でも、でもこんなぼくでも、強くなれたらって、姉さんの隣に立てたらって、そう思ったんです」
リヴァイはゆっくりと瞬きをした。手を伸ばし、アルミンの肩に乗せる。その手は少しひんやりとしていた。
「お前のことをなにも知らねぇ俺が言えたもんじゃないが」
そのとき、リヴァイが笑った。
いや、口角はぴくりとも動いていないし、目元が下がったわけでもない。だがなぜかアルミンはそう思った。
「お前ならきっと大丈夫だ。それだけ強い気持ちがあるなら、きっとな」
アルミンは口を引き結び、しっかりと頷いた。肩に乗せられた手が離れる。
「お前の姉さんは自分ひとりでなんでも背負い込む癖がある」
不意にリヴァイの視線が流れてアリアのほうへ向く。その声音がどこか心配そうに揺れるのを感じた。
「だから、無茶しねぇようにしっかり見張っていてくれ。もちろん俺も気を配る」
「はいっ、もちろんです!」
たとえどれだけかかろうとも、アルミンは必ずアリアの隣に立つ。そしていっしょに敵に立ち向かってみせる。今度は自分が姉さんを守るんだ。
アルミンはその瞬間、強く決意した。