第9章 姉さんの隣で海を見たい
口を開けてケーキを頬張る。
アルミンは目を見開いてごくんっとそれを飲み込んだ。
「お、おいしい……!!」
喫茶店につくころにはアルミンの涙はすっかり乾いていた。アリアはそんなアルミンを見て嬉しそうに笑い、リヴァイも満足そうに紅茶を飲んでいた。彼の前にケーキは置いていない。
「リヴァイさんは食べないんですか?」
同じようにケーキを頬張りながら、アリアが聞いた。アリアとアルミンの向かいに座っているリヴァイはその問いの答えを探すようにカップをソーサーに戻した。
「もともと俺はあんまり甘いもんが好きじゃねぇ」
「え、そうなんですか?」
熱い紅茶をふーふーと冷ます。そっと口をつけると、やっぱり熱くてアルミンは慌てて水に手を伸ばした。
ちらりと姉とリヴァイの様子を盗み見る。
「じゃあどうしてわたしをここに誘ってくれたんですか?」
「あ?」
「えっ?」
アリアは心からの疑問を言ったのだろう。対してリヴァイは恐ろしく顔をしかめてあからさまに目を逸らした。
アルミンは静かにぴんときた。まったく、他人からの好意ににぶい姉さんだなぁ。ケーキに乗ったさつまいもにフォークを刺して、あむ、と口に運ぶ。
「……ケーキが、美味そうだったからだ」
苦し紛れのように小さな声でリヴァイは言った。アリアは不思議そうに首を傾げている。
「たしかにこんなおいしいケーキがあったらだれかと食べたくなりますよね!」
しかし妙な方向で納得したのか、アリアは元気よく頷く。リヴァイは微妙そうな顔でもう一度カップを傾けた。
アルミンはなにも言わなかった。
姉がリヴァイに向けていた笑顔。その意味をアルミンは改めて理解した。やっぱり姉さんの好きな人はリヴァイさんなんだ。だったら余計に、アルミンは自分が邪魔になってしまってるのではないかと不安になった。