第9章 姉さんの隣で海を見たい
「アルミン、お前ケーキは好きか」
無言で二人を見守っていたリヴァイが不意に口を開いた。
突然の質問にアルミンは瞬きをする。アリアはリヴァイが何を言いたいのか理解したのか、弾んだ声で言った。
「今からさつまいものケーキを食べに行くの。すごく美味しそうなんだよ」
「その店の出す紅茶も美味い」
「え、えっと」
ケーキは好きだ。あまり食べたことはないが、一度だけアルミンの誕生日にアリアが作ってくれたことがあった。あれはとても美味しかった。さつまいものケーキ。食べてみたい。
「でも」
でも、そのケーキは二人で食べに行くんじゃないの?
聞こうとして口を開いて、思わずつぐんでしまう。
自分は幼いから、二人の会話についていけるはずないし、気を遣われてしまうかもしれない。邪魔になるだろう。
「アルミン」
だがそうして断ってしまえばケーキは食べられなくなる。その上アリアともここでお別れだ。それは嫌だった。
うまく伝えることができなくて、アリアの服をギュッと握りしめていると起伏のない声がアルミンを呼んだ。リヴァイだ。
アルミンは顔を動かして横に立つリヴァイを見る。抱き上げられているから、自然とリヴァイと視線が同じになる。真正面から見据えると、彼の印象はずいぶん変わった。
「ケーキは食いたいか」
短い問いかけだった。
下から見上げる時に感じる圧はなく、仏頂面の奥に穏やかさが見える。
アルミンはリヴァイの目を見つめ、やがてゆっくりと頷いた。
「食べたい、です」
「なら行くぞ」
「エレンとミカサにも持って帰ってあげて。姉さんが買ってあげるから」
リヴァイの言葉にアリアは嬉しそうに笑った。
「い、いいん、ですか? 僕がいたら、」
「ガキのくせに変な我慢を覚えるな」
「リヴァイさんもアルミンとお話してみたかったんだって」
険しい顔になったリヴァイの本心をアリアが囁く。
アルミンは知らなかったが、リヴァイはアリアからアルミンの話をよく聞かされていたのだ。だからこそ名前を覚えていた。
歩き出してしまったリヴァイの背中を見つめ、アルミンは「そっか」と呟いた。