第9章 姉さんの隣で海を見たい
「……ねえさん」
舌がもつれてたどたどしくその名を呼ぶ。
こちらに駆け寄ってくる姉の姿を見て、喉の奥が熱を持った。鼻の奥がツンと痛んで、はくはくと口で息を吸う。
「どうしたの? なにかあった?」
アリアはアルミンのそばにしゃがんだ。視線を合わせるように。そのせいで、彼女のワンピースの裾が地面についてしまう。せっかくの綺麗な服が。
それが余計にアルミンの心をきつく絞った。
「ぼく、ぼく」
泣くな。こんなところで泣くな。
ただ言うだけだ。手紙を渡しに来たって。それを渡せばいい。壁外調査、がんばってねって。
なのにアルミンは声が出せなかった。
言葉の代わりにこらえた涙が溢れた。
「アルミン、どうしたの?」
驚いたようにアリアが言い、アルミンの頬を両手で包む。いつも彼女の手はぬくい。
一度溢れた涙は止まらず、勢いを増していった。
「ぼく、ねえさんに」
強く抱きしめられた。あやすように背を撫でられる。
アルミンはその背中に手を回した。しがみつき、肩に顔を埋めて。
姉さんがどこかへ行ってしまう。
姉さんのお出かけを邪魔してしまった。
こんなところで泣きたくなかった。
それらがぐちゃぐちゃに混ざってアルミンに涙を流させたのだ。
「うん」
「おてがみ、渡したくて」
「お手紙? 嬉しいな」
「でも、おでかけするんでしょ、来ちゃってごめんなさい」
「どうして? 姉さん、アルミンに会えて嬉しいよ。姉さんにお手紙を直接渡そうとしてくれたんでしょう?」
ありがとう。
耳元で囁かれる優しい言葉。アルミンはぐずぐずと鼻を鳴らしながら「うん」と頷いた。
よいしょ、とアルミンはアリアに抱き上げられる。
もっともっと小さい頃にしてもらったように、アリアはアルミンをあやした。リヴァイの視線が恥ずかしくて、アルミンは思わずもぞもぞと動いた。