第9章 姉さんの隣で海を見たい
アルミンがその姿を見つけたのは本当に偶然だった。
もうすぐ壁外調査を控える姉へ、直接手紙を届けようと歩いていたときだった。兵舎の出入口の前で兵服ではなく、かわいらしいワンピースに深い赤色のコートを着ている姉を見つけたのだ。
明らかにどこかへ出かける様子だ。アルミンは手紙の入ったカバンを上からぎゅっと握りしめる。声をかけていいのだろうか。
「アリア」
もんもんと悩んでいる間に、姉の元にだれかが来た。
兵舎から出てきたのは一人の男だった。アルミンはその男を知っていた。一度だけ会ったことがある。
「リヴァイさん」
姉の待ち人は彼だ。
声をかけられ、ふと顔を上げたアリアの口元には微笑みが浮かんでいた。アルミンやエレン、ミカサたちに向ける微笑みとは違う。あれは……あの、微笑みは。
「今回はわたしのほうが先でしたね」
「悪ぃな。ナスヴェッターに捕まってた」
リヴァイと呼ばれた男はアリアの上官だ。
初めて会ったときは知らなかったが、今では“人類最強”という2つ名がついているとか。
そんなすごい人と言葉を交わしたことがある過去を、アルミンは誇りに思っていた。そしてそれ以上に、最愛の姉がリヴァイと同じ班にいることにも。
「じゃあ行きましょうか」
姉は笑う。アルミンの知らない顔で。
それが寂しくて、もやもやとして、アルミンはうつむいた。アリアが取られてしまうような気がしたのだ。
もう帰ろう。アルミンは二人に背を向けようとした。
「アルミン」
だがそれはできなかった。
突然名前を呼ばれて、ほとんど反射的に振り返る。リヴァイがこちらを見ていた。
「アルミン? なんでここに」
その視線を追って、アリアが驚いたように言った。