第3章 正しいと思う方を
「相棒、というと……馬のことですか?」
執務室を出て廊下を歩くエルヴィンに聞く。
1歩前を歩くエルヴィンは少しアリアを振り返り、頷いた。
「あぁ。調査兵団に馬は必要不可欠な存在だ。訓練兵時代には乗馬訓練があっただろう?」
「はい。基礎的なことと走っている馬からの立体機動への訓練をしました」
訓練を始めたころは内腿が悲惨なことになり、全身を筋肉痛が襲ったが何度も何度も訓練を重ねるうちに馬に乗ることが楽しくなっていったものだ。
オリヴィアはよく馬から振り落とされていたが。
「憲兵団や駐屯兵団は壁内での仕事が多いため馬に乗る機会は少ない。乗ったとしても整備された道を走る。だが調査兵団は違う」
兵舎の廊下は新兵やその上官でガヤガヤと騒がしい。
その中を縫って歩きながらエルヴィンは言葉を続けた。
「壁外調査では道は整備されていない。雨が降れば道は通常より悪くなる。しかも巨人から逃れたり地面の岩など障害物が多くある。それに慣れるための訓練を調査兵団では行っているんだ」
ふむふむ、とアリアは頷く。しかしその顔はどこか曇っている。
そのことに気づいたのか、振り返ったエルヴィンが不思議そうにアリアの顔を覗き込んだ。
「なにか問題があったかな?」
「あ、いえ。問題……というか、これはわたし自身の問題というか……」
もごもごと言い淀むアリアにエルヴィンは眉をあげて言葉を待つ。
やがて不甲斐なさそうにアリアは口を開いた。
「訓練兵のときもそうだったのですが……どうもわたしは馬に懐かれにくいようでして……」
「懐かれにくい?」
「はい。馬だけでなくそのほかの動物からもあまり好かれたことはありません」
しゅん、と肩を落としたアリアは小さいころからまったく動物に懐かれなかった。
人懐っこい犬もアリアを前にすると唸りをあげた。餌をねだる猫もアリアを見ると毛を逆立てた。