第3章 正しいと思う方を
「俺はボック! 一応ここの副分隊長をやってる。よろしくな、新兵」
「よろしくお願いします!」
ニカッと笑ったボックはわしゃわしゃとアリアの頭を撫でた。
茶色の髪に緑の目はアリアにエレンを思い出させる。少しだけ親近感が湧いた。
次にアリアの前に来たのはすらりと背の高い女性だった。
「アタシはランゲ。エルヴィン分隊長に選ばれるなんてアンタも大変だな。ま、なにか困ったことがあったらいつでも言いな。アタシがなんとかしてあげる」
なんだか気の強い人のような印象を抱いたが、かけられる言葉は優しいものばかりだ。美人特有の顔のキツさも瞳の中の優しい光が和らげている。
「最後に……ほら、そんなとこに隠れてないで出てきなさい!」
ランゲのビシッとした鞭のような声は執務室の端に飛んだ。
「ひぃっ!」
遅れて気弱そうな声が返ってくる。
ランゲの視線の先を追うと、部屋の隅に壁と同化するようにひっそりと佇む1人の男がいた。
華奢な男はもさもさの黒髪を目元まで伸ばし、オドオドしながら壁に背をつけた。
「ぼ、僕は、その、ナスヴェッター……こ、この分隊では、さ、最年少……だった。えっと、あの、あまり話しかけないでくれると、その、助かるよ」
「ナスヴェッター、もっと自信を持ってくれ。君の立体機動の腕はこの分隊の中ではずば抜けているんだから」
エルヴィンが言うが、ナスヴェッターは再び「ひぃっ!」と小さな悲鳴をあげて首をぶんぶんと横に振った。
「そそ、そんな、ぼ、僕なんてまだまだですよ……はは、ぶ、分隊長も、冗談が上手いんですから……」
アリアはナスヴェッターを見て、隣のボックを見た。
ボックは気にするな、とでも言うように肩を竦める。
「ナスヴェッターはいつもあぁなんだ。そのうち慣れるさ」
「そ、そうですか……。よろしくお願いします、ナスヴェッターさん」
「エッ、あ、あぁ、そ、そうだね……」
アリアは改めて第1分隊の面々を見渡した。
ちょっと癖のある人はいるが、優しそうな人ばかりで本当に良かった。足を引っ張らないように頑張ろう。
「ではアリア。次に君の相棒を選びに行こうか」