第9章 姉さんの隣で海を見たい
「なら、今度行ったときに買って来ましょうか? それでみなさんで食べましょうよ!」
アリアはふと思いついたことを口にした。
「昼間は忙しいでしょうし……夜中にこそっと集まって」
言いながら、ワクワクとした感情が伝わったのかエルヴィンが微笑む。ハンジも眼鏡の下の目を三日月に細めた。
今までアリアは規則正しい生活を心がけてきた。
夜には決まった時間に寝て、朝は早く起きる。兵士としては当たり前だし、実家では弟がいた手前見本になろうと頑張っていたからだ。
だからこそ、一般的には“よろしくないこと”である、“夜中にケーキを食べる”をやってみたかった。
「いいね、それ! 1回くらい夜更かししても大丈夫だよ」
真っ先に乗ってきたのはやはりハンジだ。
元々徹夜常習犯のハンジにとっては夜中のケーキくらい屁でもないのだろうけど。
「あぁ、そうだな。ちょうど美味い紅茶が友人から贈られてきたんだよ。それと一緒に食べようか」
「よっしゃあ!! ね、いつ行くの? あぁ〜早く食べたいなぁ!」
「3日後に行く予定ですっ」
アリアが答えると、ハンジは笑顔のまま伸びをした。遅れてあくびがこぼれる。
二ファの言う通り、6徹目は本当のようだ。
「じゃあそのケーキを楽しみに、残りの仕事も頑張らないとね」
「その前にハンジ、お前はシャワーを浴びて寝たほうがいい。そろそろ近隣から苦情が来そうな匂いだぞ」
「えっ、まじ? そんなに?? 自分じゃ気がつかなかった」
すんすん、と服の匂いを嗅ぎ、しかしピンときていないらしいハンジは首をかしげた。
「ま、エルヴィンがそこまで言うなら相当だね。じゃあシャワー行ってくる!」
「あぁ、そうしなさい」
ぱたぱたと騒がしく出て行ったハンジを、エルヴィンと共に見送ったあと、アリアは「あっ!」と叫んだ。
「どうかしたか?」
「……書類」
リヴァイから頼まれた書類をハンジに渡しそびれた。
紙の束を抱えたまま呆然とするアリアを見て、エルヴィンは堪えきれない、というように噴き出した。