第9章 姉さんの隣で海を見たい
「でも兵団内での恋愛は禁止じゃないから、隠す必要はないと思うけどなぁ」
のんびりとハンジが言った。
しかしアリアは微妙な顔で口元を歪ませる。
「それは、もちろんそうなんですけど……まず第一にリヴァイ兵長に気持ちを知られるのが怖くて」
「どうして?」
「えっ」
「だって、もしかしたらリヴァイもアリアのことが好きかもしれないじゃん。そんなの、言ってみなきゃわかんないよ」
「違うんです、そうじゃなくて」
「ハンジ、それくらいにしておくんだ」
なかなか噛み合わない会話に、アリアが困り始めた時エルヴィンが口を開いた。
好奇心を満たそうとアリアの方に身を乗り出すハンジの前に手を出す。まるで犬の「待て」のような動作に、ハンジは面食らったあと大人しくそれに従った。
「アリアの言うとおりだよ。“気持ちを伝えれば嫌がられるかもしれない”、“今の関係が壊れてしまうかもしれない”。そう思ってしまうからこそ我々は素直な心をこぼすことを恐れてしまうんだ」
諭すような言葉だった。エルヴィンも同じような経験をしてきたのだろうか。
しかしハンジはイマイチ理解しかねているように首を捻った。
「それに心のうちを全て相手に話す必要はないんだよ。心の中に秘めたままでいい想いもある」
「ふぅん、そういうもんか」
「そういうもんだよ」
パチパチと瞬きを繰り返したあと、ハンジはようやく息を吐いた。
するりと視線がアリアへ寄越される。
「ごめんね、アリア。勝手なことを言って」
「い、いえ、気にしないでください。ハンジさんの言いたいこともわかりますから」
ただアリアは臆病になっているだけだった。
アリアに現状を壊す勇気がないように、逆にハンジはそれを恐れる心がないだけの話なのだ。
「しかし、さつまいものケーキか。食べてみたいな」
仕切り直すようにエルヴィンが軽い調子で言った。