第9章 姉さんの隣で海を見たい
アリアが言った瞬間、ハンジが止まった。
「えーっと、ちょっと聞くけど」
「はい。どうしました?」
「君、リヴァイは最後に誘いに行ったの?」
ハンジの質問の意図がよくわからず、アリアは首を傾けた。
思わずエルヴィンを見ると、彼はちゃんと理解しているのかゆるく微笑んでいる。
「いえ、元々は誘うつもりはありませんでした」
「えっ!?」
「アリア、それは……」
しかしその微笑みもすぐに引きつった。
「じゃあどうして行くことになったの?」
答えようとして、アリアは口を閉じた。
リヴァイから誘われた、と答えればそれで済むのだが、なんとなく恥ずかしい。じわっと頬が熱くなるのがわかった。
「リヴァイの方から誘ってきたのかな?」
そこに助け舟、というか正解を打ってきたのはエルヴィンだ。
アリアは肩を跳ねさせ、誤魔化すように笑った。
「へ、へへ、そう……なりますね」
「あのリヴァイが、ついに……!」
「これはなかなかの進歩だな。あとでからかいに行ってやろう」
「あ、あの、ええと、急にどうしてそんなことを?」
ハンジとエルヴィンの言っている意味が理解できないアリアは、一人混沌と化していた。
疑問符を至るところに飛ばすアリアに、ハンジは苦笑した。
「だってアリアってリヴァイのこと好きなんでしょ? だったらとっくに誘いに行ってるものかと思ってさ」
「…………え?」
「ハンジ」
「ん? 何?」
うめきをあげて、アリアはその場に崩れ落ちた。
カミラといい、なぜこんなにもあっさりアリアの好きな人は周りにバレてしまうのだろうか。
「あ、ごめん。もしかして隠してた?」
「ハイ」
「いや、でも、アリアはだいぶわかりやすいよ?」
「うぐっ、カミラさんにも同じこと言われました」
「ま、まぁ、リヴァイにはバレてないって。そういうの疎そうじゃん、あの男」
「そ、そうですかね」
それならいいんだけど、と立ち上がったアリアの横顔を見つめ、エルヴィンは曖昧に笑った。
リヴァイはアリアからの好意に気づいている。だがそれを知っているのはどうやらエルヴィンだけらしい。