第9章 姉さんの隣で海を見たい
同時刻。
アリアのいなくなった執務室で、リヴァイはソファーに座って項垂れていた。
「何、やってんだ」
誰もいないことをいいことにリヴァイは呟く。
例の喫茶店を見つけたのは一週間前だった。
紅茶屋に寄った時、不意に目に飛び込んできたのだ。うまそうな匂いがして、吸い込まれるように店に入っていた。
そして、ショーケースに行儀よく並んだケーキたちを見た瞬間、アリアと食べたいと思ってしまった。
(あいつへの想いを隠し通すって決めたのは、俺だろう)
アリアが、うまそうにケーキを食べる姿が見たかった。
訓練続きで、息抜きをしていないであろうアリアが少しでも喜んでくれたら、と。
嬉しそうに笑う顔が見たかった。ただそれだけだった。
「くそッ」
アリアへの恋を自覚してから、自分の心を思い通り扱えたことなんて一度もなかった。どれだけ捨て去ろうと思っても、アリアを前にするとダメだった。
自分以外の男が彼女の隣に並んでいることを想像して、吐き気がした。素直に喜べるはずがない。
(やめだ)
これ以上悩んでも仕方ない。
冷め切った紅茶のポットを抱え、リヴァイは立ち上がった。
アリアへの想いを押しつぶしてしまいたいと願う自分と、二人で出かけられることに喜ぶ自分が浅ましくて、嫌気がした。
もし、アリアへこの感情を告げる時が来るとしたらそれは、
(それは、きっと)
アリアか自分が死ぬ時だ。