第9章 姉さんの隣で海を見たい
アリアが持っていた書類を見せると、ニファは「あっ」というような表情をしたあと、執務室の中を振り返った。
つられてアリアも覗く。そこには誰もいなかった。
「ごめんね、今分隊長は団長のところに行ってるんだ。副長もお風呂だし」
「机の上に置いておくとまずいですか?」
いないのならいないで出直せばいいのだが、いかんせんこれは兵長からの荷物だ。アリアが持っているのもダメな気がする。
「高確率でなくす」
「なんと……」
「確実なのはモブリット副長なんだけど、多分長風呂になるだろうし」
「そうなんですか?」
「あの人四日はシャワー浴びてないから」
「え」
「ちなみに分隊長はこれで六日目ね」
あれは冗談ではなかったのか。というかハンジの風呂に入っていない日数が一日増えている。
「アーベルさんもケイジさんも訓練だし、私も今から寝に行こうとしてて」
確かにニファを見ると、彼女の両目の下には濃いクマがある。
ハンジやモブリットだけでなく、第四分隊全員が忙しいのだろう。
「あぁ、じゃあ私が直接分隊長のところまで行きます。団長室にいるんですよね?」
「うん。ごめんね〜」
言いながら、ニファは大きなあくびをした。
恥ずかしそうに笑って、よろよろと部屋から出てくる。
「じゃあ、また。巨人捕獲の時は一緒に頑張ろうね〜」
手を振り、ニファはおぼつかない足取りで自室の方へ向かって行った。
一人取り残されたアリアは、もう一度気合いを入れ直し、団長室のある方へ足を向けた。