第9章 姉さんの隣で海を見たい
アリアはリヴァイからハンジに渡してくれ、と渡された書類の束を抱えて廊下を歩いていた。
頭の中は未だ混乱状態だ。
(さ、そわれた、んだよね。わたしが、リヴァイさんとケーキを食べに)
ケーキを食べに!? 二人で!?!?
今にも叫び出したいのをグッと堪え、全身に力を込める。
そうしないと喜びで何をしでかすかわからなかった。
まさかリヴァイもあの喫茶店の存在を知っていて、ケーキを食べたいと思っていたなんて。茶菓子を食べるリヴァイを見たことがあっても、ケーキを食べている姿は想像もできない。少し見るのが楽しみだ。
(こ、これって、やっぱりデートってことになるのかな。いや、いやいやそもそも恋人ですらないんだからこれはデートじゃなくって、えーっと、そう、ただのお出かけ! うん。そうそう、お出かけだよね。兵長は部下と親睦を深めようとしてくれているだけで)
危うくハンジの部屋を通り過ぎるところだったアリアは、我に返って少し引き返す。一度騒がしい脳内をスッキリとさせてから、ノックのために握り拳を作った。
「特別作戦班所属、アリア・アルレルトです。ハンジ分隊長はいらっしゃいますか」
(でも)
ふと浮かんでくる、リヴァイの表情。
行きます、とほぼ即答で返事をした時、彼はほんのちょっとだけ笑っていた。そして「そうか」と小さな声で言ったあと、また「わかった」と今度はちゃんとした声量で。
……最初の「そうか」は嬉しさを堪えているものだったのだろうか。そうだったらいいな、なんて。
「アリア? おーい、アリア??」
肩をゆすられて、アリアは驚きで声にならない悲鳴をあげた。
「ニ、ニファさん」
しまった。つい物思いに。
ニファは不思議そうにアリアを見て首を傾げた。
「ハンジ分隊長がどうしたの?」
「あ、その、リヴァイ兵長から書類を渡すよう頼まれて」