第9章 姉さんの隣で海を見たい
「は、はい。なんでしょうか」
ドアノブに乗せていた手を慌てて引っ込め、アリアはリヴァイの方に全身を向けた。
「…………」
「あの? リヴァイ兵長?」
しかしリヴァイは買い物袋を抱えたまま何も言わない。
その顔は恐ろしく険しく、何か粗相をしてしまったのだろうか、と指先が小刻みに震えるほどだった。
「お前、次の休みはいつだ」
短い問いかけだった。
アリアは一瞬呆けて、急いで手帳を取り出した。日程が書かれているページを見て、三日後の休みを確認する。
「み、三日後です。それ以降は壁外調査が終わるまでありません」
なぜ急に予定確認を??
アリアの脳内選択肢が出現する。
1、壁外調査に備えて訓練をつけてやろう
2、何かしらのお使いを頼みたい
3、ただ聞いただけ
の3つだ。
本当ならばアリアはその休日を例のケーキを食べに行く日に使おうと思っていた。そしてそのあとは思う存分寝るのだ。
だが、もし1番と2番の選択肢が当たったとしたらアリアに断ることなどできない。上官の命令は絶対だからだ。
「…………」
「…………」
しかし、聞いたきりリヴァイは黙り込んでしまった。
沈黙が二人の間に満ちていく。
何か用事を頼みたいわけではないのだろうか。
「麓の紅茶屋」
「えっ、あ、はい」
「あれの隣に喫茶店ができたのを知っているか?」
予想を大きく外れた言葉に、アリアは瞬きを繰り返した。
その喫茶店をアリアは当然知っている。ちょうどその店のケーキのことをさっきまで考えていたからだ。
「はい。知ってます。あそこのケーキが美味しそうだなって、今日お使いの帰りに思ったところですよ」
本当はリヴァイ兵長を誘いたいんですけど、なんだか恥ずかしくて〜とは絶対に言わない。
リヴァイは、アリアの言葉に目を少し開いた。
「行くぞ」
「……へ?」
「次の休暇、そこのケーキを食べに」