第9章 姉さんの隣で海を見たい
抱えていた荷物を地面に下ろし、アリアは慎重に布に手を伸ばした。端をつまんでそろりと覗く。
「……樽?」
それは一見なんの変哲もない大きな樽だった。
よくよく見てみると、蓋の部分には無数の穴が空いていて、反対には導火線のようなものがくっついている。
訳がわからず、アリアは首を傾げた。
「これがどう作用するのかは訓練の時のお楽しみだ。まだまだ改良したい点は多々あるけど……今はこれで満足するしかない」
「そうなんですね……」
ハンジの秘密めかした言い方にアリアはそんな相槌を打つことしかできなかった。
そもそもアリアは巨人捕獲の瞬間など見たことがない。この樽だけを見て使い方を当てるなんて到底無理な話だった。
「ところでアリアは買い物に行ってたのかい? 人のことは言えないけど、ずいぶんな大荷物じゃないか」
よいしょ、と袋を拾い上げたアリアに、ハンジはついでだというように言った。
「はい。リヴァイ兵長から頼まれて、あっ」
言いながら、アリアの脳裏にさつまいものケーキがよぎった。
「あの、ハンジ分隊長。麓の紅茶屋さんの隣で美味しそうなケーキ屋さんを見つけたんです。もし調整日などがあったらご一緒にどうですか?」
「さつまいものケーキ?」
アリアの話に食いついたのはハンジではなかった。
アリアとハンジの目がモブリットに向く。彼は口を挟んでしまったことを反省するように、即座に「すみません」と言った。
「モブリットはさつまいもが大好物なんだよ」
「へぇ! そうなんですね! モブリットさんもどうですか?」
「あぁ、いや、アリア、気持ちはありがたいんだが……」
一瞬顔を輝かせたモブリットだったが、すぐに曇ってしまった。
それはハンジも同じだった。
「たぶん次の壁外調査までちゃんとした休みは取れなさそうなんだ」
「ここ最近働き詰めでね。実は私はもう五日は風呂に入ってない」
「え」
「冗談だよ」