第8章 これから恋敵
黙り込んだペトラを不思議そうにアリアは見る。
しかし、この話の流れと今にも泣き出しそうなペトラを繋ぎ合わせ、アリアはいとも簡単に真実に辿り着いてしまった。
「もしかして、ペトラの好きな人って……」
心底言いにくそうに、アリアは声を震わせた。
「リヴァイ兵長?」
無言の肯定。唇を固く結び、ペトラは何も言わないことを選んだ。
アリアはぎゅっときつく目を閉じ、ゆっくりと開いた。
「あぁ、そっか、でもやっぱりそうだよね」
アリアの声は相変わらず落ち着いていた。
それが余計に心を抉る。
「リヴァイ兵長、かっこいいもんね」
「……はい」
そりゃ好きになっちゃうよね。
小さく、本当に小さな声で彼女はつぶやいた。そこに怒りや悲しみなどは感じられない。ただ、当然の事柄を確認するような声音だ。
「すみません、私──」
「諦める、なんて言わないで」
鋭く言った。喉元まで出かけた言葉を咄嗟に飲み込む。
ペトラは恐る恐るアリアの顔を見た。
「わたしだって、ただの片思い状態なの。だからそう簡単に諦めないで」
「でも、そんな、」
アリアに勝てるわけがない。叫んでしまいたかった。
共に過ごした年数も、共に死線を潜り抜けた回数も、何かもが違いすぎる。それに、あぁ、脳裏に浮かぶ、今朝見てしまったこと。
あの時のリヴァイの声はあまりにも優しさを含んでいた。あれを聞いて、見て、まだ勝ち目があるなんて到底思えない。
それでも諦めたくないと心のどこかで誰かが囁く。
「私、訓練兵に入る前、同じようなことを経験したんです」
今にも潤み、歪んでしまいそうな視界の中でアリアはペトラの言葉を待っていた。
「赤ちゃんの頃から一緒に育ってきた親友と好きな人が被ってしまって、その親友は体を動かすのが好きな私とは違って物静かで、お淑やかな女の子だったんです。私も、頑張ったんです。化粧とかを覚えて、少しでも彼に振り向いてもらえるように」
でも、その努力が報われることはなかった。
彼は親友を選んだ。