第8章 これから恋敵
アリアの手が伸びて、髪飾りに触れる。
髪飾りの贈り主を想っているのか、アリアは目を伏せた。
「おなじ、女性だった。あの人は、ずっとわたしを想っていてくれていた。墓場まで持って行くつもりだったって言われた。わたしを、困らせたくないからって」
「……でも、その人の気持ちをアリアさんは知っている」
「うん。告白、されたの。わたしにほかに好きな人がいるって気づいていて、でもやっぱり、伝えなきゃって思ってくれたのかもしれない」
長いまつ毛がかすかに震えた。
涙をこらえているように、見えた。
「だれを好きになろうと、だれに想いを告げようと、それは自由だよ。なんにも悪いことじゃない。だから」
ついにペトラの数歩前で、アリアの足が止まった。
遠くの夕焼けを背負って、彼女はペトラを振り返る。
「恋しちゃダメ、なんて言わないで」
そんなこと言ったら、カミラさんに怒られちゃう。
冗談めかして付け加えられた一言で、ペトラはようやく髪飾りの贈り主の名前を知った。
「……アリアさんの、好きな人ってだれなんですか?」
「ん〜……だれにも言っちゃダメだからね」
ペトラの問いかけに、アリアは笑う。
その笑顔にペトラも思わず笑い返していた。
あの人が好きだと言っていいんだ。
当たり前のことのはずなのに、それはずっと悪いこととしてペトラの心を締めつけていた。
これからは、胸を張って――
「リヴァイ兵長」
好きだと言えるはずだったのに。