第8章 これから恋敵
「ペトラは好きな人とかいるの?」
ついでだ、とでも言うようにアリアは話を続ける。
率直な問いかけだった。だが、ペトラは思わず黙り込んでしまった。
「私は……」
好きな人。言われて思い出すのはどうしても、リヴァイだった。
だが、リヴァイは憧れの人だ。好きな人に分類してしまったら、なにかが崩れるような気がした。
「わからない、です」
でも、今思うとあれは、きっと一目惚れだった。
「同じ調査兵の人で、翔ぶ姿があまりにも綺麗で……見惚れたんです」
訓練兵の同期たちに混ざって、実技訓練だと飛び回るリヴァイの姿を見て、息を飲んだ。まるで本当に翼が生えているかのように自由自在な身のこなしは、ペトラに強い衝撃を与えた。
羨望だった。あの人のようになりたいと思った。
「けど、私にとってその人は憧れで、きっとその感情は恋とかそういうんじゃないんです。そんなこと思っちゃ、ダメなんです」
そもそもリヴァイは雲の上のような人だ。
どれだけ手を伸ばしても届かない場所にいる。そんな人に恋をするなんて、そんなの身の程知らず過ぎる。
「その人みたいになりたいの?」
「はい」
「その人のことを考えると胸が熱くなる?」
「……はい」
「その人の隣にいたいって、思う?」
「はい。叶うのなら、あの人のそばで戦いたい。ずっと、見ていたい」
アリアは一瞬黙り、それから愛おしいものでも見るかのようにペトラを見据えた。
「わたしもね、ペトラ。同じように想う人がいるの」
わずかにアリアの歩みが遅くなった。
「その人に憧れてる。その人のことを考えると心が熱くなって、大袈裟だけど生きなきゃって思う。あの人の隣にいるために。あの人の隣で立っているために。そのために、こんなところで死ねないって何度も自分を奮い立たせてきた」
ペトラはなにも言わず、静かにアリアを見た。
優しく、あまりにも優しく目元を緩めていた。恋だ。彼女は、恋をしている。
「ねぇ、ペトラ。だれかを想うのは自由なんだよ」