第8章 これから恋敵
アリアの隣に並び、共に厩舎を出る。
そのときにようやく、ペトラはアリアが己よりも小さいことに気がついた。差は微々たるものだが、それでも意外だった。
「どうしたの?」
ペトラの視線に気づいたのか、アリアがちらりと目線を上げる。
「あ、いえ……私、アリアさんより身長が高かったんだなぁって……」
言ってから、しまった、と思った。
もしアリアが自分の身長について気にする人だったらどうするんだ。いやそれよりも、そもそも上官に向かって言うべきことではないだろう。
あわあわと慌てるペトラとは対照的に、アリアは朗らかに笑った。
「そう? そんなに変わらないと思うけど……たしかに、ペトラのほうが目線が高いね。さすが成長期!」
「成長期……」
「うん。成長期。だって、まだペトラは15歳でしょ? まだまだ伸びるよ、きっと」
「うぅん……でも私、これくらいの身長がいいかもしれません。あんまり高くなるのは……」
「あ、なんとなくわかるかも。やっぱり小柄な方が好きな人にかわいいって思ってもらえるかもしれないし」
「そう、そうなんです! 背が高い女は恋愛対象外とか言われたらって考えると……」
言いながら、ペトラの脳裏になぜかリヴァイの姿が浮かんだ。
一般的な男性と比べればリヴァイも小柄だ。彼と並んだときにあまり身長差がありすぎるのは――
(い、いやいや! なに考えてんの、私!!)
リヴァイの隣に自分が並び、歩いている。そんな姿を想像してしまい、慌ててペトラは頭を振った。
「わっ、大丈夫? 虫とかいたかな」
「いえ!! なんでもないです!!」
思っていたよりも大きな声が出て、遠くの方でカラスの飛び立つ音が聞こえた。
ぱちくりと瞬きをしたアリアは、なにを思ったのかにやり、と悪戯を思いついたような笑みを浮かべた。
「もしかして、背の高い自分と好きな人が並んだところとか考えた?」
「へっ!!?」
「その反応は当たりかな」
「な、なんで……」
小さな、弱々しい声で問うと、彼女はぱちんと指を鳴らす。
「この話の流れだったら考えちゃうものだよ」