第8章 これから恋敵
友だちになる、とは言ったもののいきなり話しかけに行くのはハードルがかなり高い。
自主訓練を終え、愛馬を厩舎に繋げるためにペトラは一人歩いていた。
愛馬はまだまだ体力が有り余っているのか鼻を鳴らしている。ツンツンとペトラの肩を小突き、顔を擦りつけてくる。
「わかったって。でもまた明日ね。もうクタクタだから」
前回の壁外調査を共に乗り越えたおかげで馬との間の絆は強くなった。それが実感できて、嬉しくて、ペトラは微笑んだ。
「お疲れ様、グリュック」
厩舎に入ったとき、奥の方から声が聞こえた。
聞き覚えのある声に誘われるようにペトラも進む。
「アリアさん」
そこにはアリアがいた。彼女も訓練を終えたばかりなのだろう。首筋にはうっすらと汗が滲んでいる。
ペトラが思わず名前を呼ぶと、アリアは顔を横に向けた。
「あなたは……もしかして、ペトラ?」
「は、はい! 以前、助けていただいたペトラ・ラルです!」
アリアはふわりと笑った。
馬の体を拭いていたらしく、手に持っていたタオルを腕にかけ、彼女はペトラに近づいた。
「お互い、ちゃんと生き残れたんだね」
壁外調査が終わってから、アリアと直接言葉を交わしていなかったことを思い出す。
「あのときは本当にありがとうございました。アリアさんがいなかったら、今の私はいません」
真っ直ぐに言い切るペトラにアリアは驚いたように目を見張る。
そしてなんとも言えない表情で頭をかいた。
「大袈裟だよ。ただわたしは……もう目の前で仲間が死ぬのは見たくなかったから。この手で救える場所に仲間がいるなら、わたしは何があったって助けに行くよ」
かっこいい、さすがだ、憧れる。
そんな言葉が口をついて出そうになって、ペトラは寸前で止めた。彼女に言うべき言葉はこれではないと思ったから。