第8章 これから恋敵
「あいつは同期を初陣で全員亡くしている。その中には親友と呼べる奴もいたらしい。だから今のあいつには友だちらしい友だちがいねぇんだ」
言ってから、「やっぱ無理か」と耳をかく。
だがペトラはぐいっと身を乗り出した。それに合わせてエルマーの上半身も後ろへ傾く。
「私なんかでよければ!」
「……へ?」
「私、調査兵団で憧れている人が二人いるんです」
初めは一人だった。たった一人を目標に調査兵団に入団した。
でも、初陣でその目標はもう一人増えた。
「私が、アリアさんの力になれるのなら。私はなんだってします!」
鮮やかに巨人を屠る凛々しい姿。かと思えば不意に見せる素の表情。それは鮮明な光としてペトラを照らしたのだ。
自分は彼女と、そして彼にこの命を捧げるために調査兵団に入ったのだと本気で思った。
「なんだって、はしなくていいけど……本当にいいのか?」
「はい!」
ハツラツと返事をするペトラにエルマーはふっと笑いをこぼす。
「そっか。悪りぃな、ペトラ」
パンのクズを払い、エルマーは手を差し出した。
握手をしろ、とその目は言っていた。
「もしお前が特別作戦班に入ることになったら、歓迎するぜ」
ペトラは目を見開き、慌てて手を握り返す。
「俺は強い奴が好きなんだ」
「そ、その時はぜひ! よろしくお願いします!」
握った手はゴツゴツと骨張っていて、オルオの手とも父親の手とも違った。
少し触れただけで豆が潰れた痕がよくわかる。訓練を何年も重ねた兵士の手だった。
後でオルオに自慢してやろう。
羨ましがる友人の顔が思い浮かび、ペトラは心の内で笑った。