第8章 これから恋敵
補給地点についたころには太陽は真上に昇っていた。
じわじわと首筋が日光に焼かれるのを感じながら、ペトラは己の尿で汚れたズボンを荷物に突っ込んだ。
洗いたいのは山々だが、水を吸ってしまえばそれだけ重くなる。洗うのは壁外調査が終わってから。つまり、一週間後だ。死ななければ、の話だが。
次いで、貸してもらっていたマントを丁寧に畳む。
さっきアリアが来て、「そのまま返してもらってもいいよ?」と言われたが、たとえ見た目が汚れていなくても洗わなければ気が済まない。もしかしたらにおいが移ってるかもしれないし。
頬を伝う汗を拭う。
どうして兵服には半袖がないのだろうか。怪我防止のためか。
どうしようもない自問自答を繰り返しながら、ペトラは水袋から水をあおった。
「ミケ分隊長と協力して奇行種を倒したんです!」
次は馬の世話だ、と愛馬の元に行くと、自慢げな声がぬるい風に乗って聞こえてきた。姿を確認するまでもない。
(アリアさんの声だ……!)
きょろきょろと姿を探す。
すぐ近くの木の根に座り、立体機動装置の整備をしていた。そばには同じ特別作戦班の兵士がいる。もしゃもしゃの髪で、両目は隠れてしまいよく見えない。名前は……たしか、ナスヴェッター。
「奇行種を? すごいね。初めてだったんだろ?」
「はい! でも、やっぱり通常種とは全然違いますね……」
褒められて一瞬嬉しそうな顔をしたあと、しかしすぐに険しくなる。
鮮やかに屠っていたから気づかなかったが、アリアにとってあの奇行種との戦闘は初めてのものだったのか。そんな風には見えなかったが。
馬の鞍を外し、大きめなタオルで背中を拭く。草を食んでいた愛馬は気持ちよさそうにペトラに顔を寄せた。
「今日は本当に暑いね」
ぽつり、とナスヴェッターがつぶやいた。
整備の手を止め、アリアは雲ひとつない青空を見上げる。
「……雨よりはマシってやつです」