第8章 これから恋敵
ミケとアリアの放ったアンカーが巨人の腕に刺さる。二人はまず両腕を切り落とす。
突然腕を失った巨人は呆気なく地面に伏せた。だがまだ足は残っている。
ペトラは激しく鳴る己の鼓動を聞きながら、アリアから目が離せなかった。
「足は俺が」
「了解です!」
ミケの声にアリアが返す。
それは互いを信頼した動きだった。
宣言通り、ミケが腕を削いだ勢いをそのままに片足を切った。両腕と左足がなくなってしまえば、もう巨人が前へ進むことはできない。
ほ、と胸を撫で下ろすペトラとは対照的にアリアは動きを止めることはなかった。
半身をひねり、アンカーを巨人のうなじへと刺し直す。ガスをふかし、無様に寝そべる背を滑るように進んだ。
狙うは巨人のうなじ。大きく振りかぶったブレードが振り下ろされ、それはひし形にえぐり取られた。
足元から巨人の返り血を浴びたアリアは、ペッと口の中の血を吐き出して巨人から降りる。それと同時に愛馬が彼女に駆け寄る。
ペトラは息を吐き、アリアを見つめた。
「よくやった。アリア」
巨人の全身から蒸気がたちのぼる。ほかの巨人が集まってしまわないうちに、ペトラたちはその場を離れる。
アリアはミケの言葉に照れたように笑って、
「とっても緊張しました」
と、おどけたように言った。
「では、わたしは兵長の元に戻ります」
「あぁ。気をつけろよ」
「はい」
「あ、あの、アリアさん」
前を走る彼女の背中に声をかける。
「ん?」
「その、助けて下さり本当にありがとうございました」
ありがとうございました。なんて言葉だけじゃ足りないほどの恩を、ペトラはアリアに感じていた。
アリアは柔らかく微笑んだ。
「仲間を見捨てるわけにはいかないからね」