第8章 これから恋敵
「ミケ分隊長!」
前方を走るアリアが声を張り上げた。
彼女の視線の先にはペトラたちの上官、ミケがいた。同じ班の仲間もいて、安心感からペトラはまた泣きそうになる。
「ペトラ、オルオ」
ミケは2人を見て、一瞬安堵の色を顔に浮かべたあと頷いた。
「助かった。アリア」
「いえ。当然のことをしたまでです」
キリッとした表情のアリアは、次の瞬間ふわりと笑った。はにかんだような笑みだった。ミケもこらえきれず、と言うように口角を上げる。
「カッコつけすぎでしたか?」
「いいや。頼もしい調査兵そのものだ」
ふっ、と場の空気が和んだと同時にすぐ近くで黒の信煙弾が打ち上がった。
黒色、つまり奇行種の出現。目をこらすと、ペトラの目にもこちらへ四足で走ってくる巨人が見えた。
通常種ももちろん嫌だが、奇行種はそれ以上に気持ち悪かった。ペトラは無意識に馬の手綱を引いていた。
「ペトラ! 足を緩めるな!」
ミケの声が響く。ペトラは喉の奥で息を飲んだ。
「新兵たちには近づかせるな。アリア、いいか?」
「もちろんです」
アリアはミケの言葉にすぐに頷き、体を横に倒した。彼女が目指すのは奇行種だ。ミケも同様に馬の頭を奇行種へ向けた。
「俺が死んでもお前たちは足を止めるな」
状況を理解している暇もなかった。
鞍の上に立ち、アリアはブレードを抜いた。
ミケと同時に宙へ身を投げる。
黄金(こがね)色の髪が太陽に当たってきらりきらりと光を散らした。その美しさに、ペトラは一瞬息を忘れた。