第8章 これから恋敵
「先ほどの巨人に襲われそうになっていた兵士です」
「第100期調査兵、ペトラ・ラルです!」
「同じく、オルオ・ボザドです」
慌てて敬礼をする。リヴァイはじっと2人の姿を見つめたあと、ペトラの腰のマントとアリアのマントのない姿を見比べた。
顔から血の気が引く。こんな大人数の前で失禁した、などと言えるわけがない。
「泥でズボンが汚れてしまっていたので、マントを貸しています」
しかし、アリアは冷静に言った。
たしかに昨夜の雨で地面はぬかるんでいる。もっともな理由にリヴァイも納得したように「そうか」と返した。
「換えのマントを着ておけ」
「はい。わかりました」
アリアが指笛で馬を呼ぶ。
ペトラとオルオの馬はすぐそばの柵に引っかかっていた。手綱を柵から外して、興奮した様子の愛馬を宥める。
「……オルオ」
ペトラはぽつりとオルオの名を呼んだ。
「なんだ?」
「その、ありがとう。私を助けようとしてくれて」
結果的にアリアが来てくれたおかげで2人とも無事だったが、もし来なければオルオが死んでいたかもしれない。ペトラを逃がそうと果敢に立ち向かってくれたのだ。
面と向かって礼を言うことはそうそうないため照れる。
もごもごと口の中で言うと、オルオはふんっと鼻を鳴らした。
「仲間だろ」
「……ちょっとかっこいいって思っちゃったのが癪ね」
「あぁ!?」
「お前ら」
腐れ縁ゆえのしょうもない口論に発展しかけたとき、リヴァイの声がすぐそばで聞こえた。
すぐさま口を閉じ、びしっと背筋を伸ばす。
「それだけの元気があるならさっさと行くぞ。アリアがお前らの班まで送っていく。ついて行け」
「「りょ、了解です!」」
補給地点まであと少し。ペトラは急いで馬に乗った。