第8章 これから恋敵
あ、とか、う、とか呻いて、ペトラは全身の力を抜いた。
ペトラの斜め前でオルオもその場にへたり込む。
たすかった。
死ななかった。
たすけられた。
弛緩したのは体だけではなかった。
ぼろぼろっ、と涙が両目から溢れた。それだけならよかったのに、
「え、嫌っ、!」
止めようと思った時にはもう遅い。股の間がじわりと濡れて、気づいた時には失禁していた。
ペトラの小さな悲鳴にオルオが振り返ろうとする。
「助けに来るのが遅くなってごめんね」
だがそれよりも早く、オルオから視線を遮るように女がやって来た。ブレードを戻し、歩きながらマントを外す。
「怪我は……してない?」
「は、はい」
「君も?」
「う、うす、大丈夫っす」
女はペトラの前にしゃがんで、手にしていたマントを差し出した。促されるままそれを受け取る。
「これ、は?」
「腰に巻くといいよ。補給地点についたら着替えてね」
「えっ、で、でも……汚いです!」
「また洗濯してくれたらそれでいいから」
受け取ってしまった手前つき返せない。
ペトラは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、「ありがとうございます」と消え入れそうな声で言った。
「アリア」
抑揚のない声が女の名を呼んだ。
女――アリアは立ち上がり、声の主を振り返る。ペトラもマントを腰に巻いてから、その目線の先を追った。
「リヴァイ兵長」
人類最強と謳われるリヴァイが、そこにいた。
ペトラとオルオは同時に息を飲む。
背後には2人の兵士がいて、そこでようやくペトラは目の前の女がいったい何者なのかを理解した。
アリア・アルレルト。
少数精鋭の特別作戦班のメンバーの一人だ。
「ほかの巨人はすべて討伐した」
「一人での討伐もなかなか様になって来たじゃねーか!」
「き、急に飛び出して行ったから心臓が口から出るかと思ったよ……」
「ちょ、3人一気に喋らないでください……!」
慌てるアリア。さっき巨人を倒したときの勢いは霧散していた。
ふとリヴァイの三白眼がペトラとオルオを捕らえる。
自然と背筋が伸びた。流していた涙は引っ込み、圧に心臓が早鐘を打つ。
「こいつらは?」
短い問いに答えたのは当然アリアだ。