第8章 これから恋敵
汗が滲んでじっとりとシャツが肌に吸いついた。
流す汗は暑さと、それから恐怖によるもの。
この春に調査兵団に入団した新兵、ペトラ・ラルは同期のオルオ・ボザドと共に死を覚悟していた。
初めての壁外調査。壁の外の広さに感動したのも束の間、巨人の群れに遭遇した。他の班員とははぐれ、残ったのは腐れ縁のオルオのみ。
「ペトラ、立て! 早く逃げるぞ!!」
腰を抜かし、立てないペトラの腕を引っ張りオルオが叫ぶ。
馬から振り落とされたのは覚えている。だがそれ以降の記憶が曖昧だ。巨人がこちらに向かって走ってきている。あぁ、死ぬのか。ここで。
「くそっ!」
オルオは喉の奥から声を絞り出し、ブレードを抜いた。
巨人を倒せるはずがないが、それでもペトラが逃げるだけの時間は稼げるはずだ。
「あ……」
待って、と止めようと伸ばした手。それをすり抜けてオルオは巨人にアンカーを刺した。
ぐんっと体が浮かび上がる直前、巨人のうなじ目がけてアンカーが刺さった。ガスの蒸す音がして、誰かが巨人の背後に回る。肉が切れて、ペトラとオルオの頬が血で濡れた。
あれだけ動いていた巨人が瞬く間に大人しくなる。
地面に倒れた巨人の上に小柄な女性が立っていた。華やかな金髪を一つにまとめ、べっこうのバレットが日光に反射して輝く。
「大丈夫?」
女性が振り返った。吸い込まれそうなくらい青い目をしていた。
それがペトラとアリアの出会いだ。