第7章 愛情は生きている
カミラは翌日、本当にいなくなった。
彼女の部屋は空っぽで、最初からそこには誰もいなかったようだった。
ナスヴェッターも、エルマーも、カミラがいなくなった理由は知らない。ただ戦線を離脱することだけが告げられた。
二人とも驚いていたようだったが、最後の挨拶に来たカミラに「今度遊びに行く」と笑って言っていた。
「じゃあね、アリア」
涙を流しすぎて目を真っ赤に腫らしたアリアは、口を閉じたまま頷いた。カミラはアリアの頬に触れて「元気で」と告げて背を向けた。
その声が震えていたことにアリアは気づいていた。
リヴァイと握手を交わし、何か言う。リヴァイの横顔は険しかった。
「お前がアリアを泣かせてるじゃねぇか」
「う、うるさいですよ。不可抗力ってやつです」
ヒソヒソと言い返し、カミラは兵舎の前で待っている馬車に乗り込んだ。
彼女はもう振り返らなかった。ただ真っ直ぐに前を向いていた。
「寂しくなりますね」
「あぁ、まったくだ」
「……アリア?」
立ったまま動かないアリアに、リヴァイが声をかける。
ナスヴェッターとエルマーはいつの間にか戻っていて、ずいぶん長い間そこに立ち尽くしていたのだとわかった。
おかげで体は冷えていて、くしゅんとくしゃみをする。
「戻るぞ」
「──はい」
カミラの乗った馬車はもう見えない。
それから1ヶ月後、カミラの実家から一通の手紙が届いた。
そこにはカミラが亡くなったことが記され、そして彼女がつけていたべっこうのバレッタが同封されていた。
彼女の両親は書きながら涙を流したのか、便箋のあちこちにシミがあった。
ころりと手のひらの中でバレッタを転がす。年季の入ったそれは温もりを残しているようだった。
三つ編みをほどき、くるりとお団子にする。髪紐の上からバレッタを留めた。
カミラの残した愛情は確かにそこにあった。
今も、アリアの中で生きていた。